闇夜の数だけエゴはある
廃工場を出て、敷地から出ようとする頃。

「儚」

武羅人が私の肩を掴んで引き止めた。

梓もまた、私を庇うように立つ。

「……!」

暗闇の中、数メートル先に人影があった。

和服姿の若い女。

多分年齢は武羅人と同じくらい。

第一印象が日本人形のようだ、と思ったのは、その身なりだけではないだろう。

その女は著しく表情に乏しかったのだ。

何の感情の感じさせない、顔、そして瞳…。

「…………」

問答無用。

武羅人が飛びかかろうとするのを、私は片手で制した。

そして、私の代わりに梓が女に問いかける。

「野須平の手の者と見受けたけど…違うかしら?」

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