闇夜の数だけエゴはある
…数メートルの距離を置いたまま、しとねが嘲笑する。

「これはこれは…『没落した』名門の令嬢、杖縁家の梓さんじゃないかい」

「……」

その言葉に梓の眉尻が動いた。

「哀れなもんだねぇ…自分よりも弱い小娘に飼われる歯牙ない狗に成り下がったのかい…矜持とか、誇りとか、そういうものはなかったのかい?」

…梓はそういうものを何より大事にする。

わかった上で、しとねは梓を挑発している。

「見た所『吸血』はされてないようだけど…それでも恥ずかしげもなく儚に甘んじてるなんて…私だったらみっともなくて外を…」

言いかけた瞬間。

「いぎっ!」

突然しとねの鼻が削ぎ落とされた!

「あらごめんなさい?」

梓は微動だにしていなかった。

いや、そう見えるだけだ。

「あんまり鼻が高いものだから少し調節してあげようと思ったんだけど…全部削ぎ落としちゃった…それと」

今度は梓が嘲笑する番だった。

「歯牙ないかどうかは確認してから言いなさい?じゃないと、今度はそのよく回る舌を削ぎ落とすわよ?」

< 185 / 221 >

この作品をシェア

pagetop