闇夜の数だけエゴはある
自慢の美貌を傷つけられた。

しとねにとって、激昂するには十分な理由だった。

「おのれがぁぁあぁああぁっ!!」

狂ったように『旋』を繰り出すしとね。

それはまさに荒れ狂う暴風。

荒れ狂いながらも、正確無比に梓を狙う冷静な狂気だった。

しかし。

「児戯ね」

梓の右脚が、スゥッと上がる。

バレリーナのような優雅で華麗で、且つ可憐な動き。

その動きから。

「!?」

『無影の蹴撃』を繰り出し、しとねの『旋』をことごとく迎撃する!

「…しとね、貴女の息子は孝行息子だったようね」

穏やかな笑みすら浮かべて梓は言った。

「貴女の手を煩わせないように、面倒事は全て野須平誠が引き受けていた…その結果…貴女が実戦を退いて何年になるの?」

潜在的な実力は、しとねの方が上かもしれない。

数値的なもので言えば、しとねは梓を凌駕するかもしれない。

だけど、すぐにその最大値が出せる訳ではない。

勘、慣れ。

そういったものは毎日の反復でのみ培えるものだ。

つまり。

「貴女は老いぼれたのよ、野須平しとね…息子を下回るほどにね」

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