闇夜の数だけエゴはある
私は視線をゆっくりと雑種に向ける。

「さっきの子…出碧の生き残りでね…苦労してようやくあそこまで追い詰めたのよ…」

「へぇ」

私の言葉にも動じる事なく。

武羅人はポケットに突っ込んだ両手を出す事もせずに私を見ている。

臆面もなく。

その態度で苛立ちが募る。

「貴方がノコノコ闘争の場に介入してきたお陰で、まんまと逃がしちゃった…これってちょっとムカつくわよね。そう思わない?」

視線の次は体。

ゆっくりと武羅人に向き直り、私は右脚でアスファルトを踏みしめた。

「逃がした責任って奴、誰がとればいいと思う?」

ようやく気づいている筈だ。

自分がしでかした事の重大さに。

雑種風情が、名門同士の闘争の場に迂闊にもしゃしゃり出てしまった事の不幸。

このとぼけた野良に身を以って思い知らせてあげる。

…そのつもりだった。

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