闇夜の数だけエゴはある
だが俺の言い分も聞かず、梓はスタスタと歩いて屋敷の中へ。

俺も黙って後を追う。

…屋敷のエントランスがこれまた無駄に広く、ここで柔道なり剣道なりの試合ができそうなほどだった。

磨き抜かれた床に、俺の顔が映りこんでいる。

土足で入ってはいけないのではないかと思うほどの手の行き届きようだ。

「あのね」

そのエントランスの真ん中で、梓はクルリと振り向く。

「貴方のエゴを語る前に、貴方をここに住まわせるというのは私の『エゴ』なの。言ったでしょ、借りを借りで済ませないって」

「知った事じゃないな。自由に振る舞っていいと言いながら、その実俺を放し飼いにしているだけだろう。俺は誰にも飼われる気はない。狗じゃないんでな」

それでも言い張るのならばと。

前置きして俺は空気を一変させる。

…途端に気温が一度二度と低くなる。

そう感じられるほどの殺気を、俺は場違いなこの屋敷で放ち始める。

待遇がいいとか、不便を感じさせないとか。

そんな事ではない。

俺の意に反する事は、既に俺の『エゴ』を通せない事に他ならなかった。

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