闇夜の数だけエゴはある
「だったら私の敵に回ったって構わないわ!」

梓の命乞いにも似たその叫びに、俺は彼女の喉元一寸で手を止めた。

「……」

俺の殺気と威圧に圧迫されたのだろうか。

立ち尽くしていただけにもかかわらず、梓の呼吸は乱れていた。

その呼吸のまま言う。

「貴方のエゴを邪魔するようならここからいつでも出て行って構わない…気に入らないようならいつでも殺して構わない…貴方のエゴを尊重するわ…だから今は…ここに留まって欲しい…」

「…それは俺を利用できると判断したからか?」

「…否定はしないわ…貴方のような亜吸血種に敵に回られるのは…」

そこで一呼吸置いて。

「私には…勝てないのよ…貴方には」

梓は悔しげに、唇を噛みながら呟いた。

これほどのプライドの高い女が、勝てないと。

敵に回られると俺には勝てないと告げた。

だからこの屋敷に留まって欲しいと。

< 67 / 221 >

この作品をシェア

pagetop