闇夜の数だけエゴはある
それは即ち、俺のエゴが梓を押し切ったにも等しかった。

俺は俺のエゴを貫き通していい。

その代わりに味方でいて欲しい。

俺は梓を屈服させたのだ。

…悔しげに、しかし俺の機嫌をとるしかない、名門杖縁家の令嬢。

その目の前の女の表情に、俺は優越感と欲望を満たされる。

「わかった」

俺は完全に殺気をおさめた。

敵意のない相手を殺すほど、俺も畜生ではない。

そして、梓は殺すには惜しい女だった。

その器量も、亜吸血種としての実力も。

俺にとっても味方につけておけば役に立つと言えた。

「言う通りこの屋敷に滞在してやる。ただし俺の行動に制限はつけないでもらうぞ。構わないな?」

「…ええ。わかったわ」

頷く梓の表情は屈辱的でいて、どこか安堵の色が窺えた。

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