闇夜の数だけエゴはある
しらしらと紫煙を吐き出しながら、母はたっぷりと間を置く。

そして語り始めた。

「知ってるかい?渡蘭市に『堕蓮(だれん)持ち』の男が紛れ込んだんだってさ」

「……!」

僕はその言葉に僅かに反応した。

そんな希少な能力の持ち主がまだ存在したとは。

過去の抗争以来、既に堕蓮持ちは絶滅したものと思っていたが。

「それがさ、事もあろうに…」

母が煙管を膝の上でポンと叩く。

「杖縁の小娘んとこに飼われてるっていうじゃないのさ」

「…!!…」

その言葉に。

目の前が赤くなった。

梓のところに…堕蓮持ちが?

いや、この場合重要なのは堕蓮持ちという事ではなかった。

堕蓮持ちの『男』が、梓の屋敷に寝泊まりしているという事実だった。



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