闇夜の数だけエゴはある

「二ノ宮」

私は庭に出て執事の名を呼ぶ。

「何でしょうか、お嬢様」

慇懃な物腰で、三十代半ばの髭を蓄えた杖縁家執事、二ノ宮がやってくる。

「武羅人はどこにいるか知ってる?」

「はい、佐久間様ならあちらに」

そう言って二ノ宮が指した先には、我が家で最も大きな樹。

その太い枝に寝そべって、気持ちよさそうに居眠りをする武羅人の姿が見える。

「あんなとこに…眠いなら寝室で寝ればいいのに」

「はい、私もそう申し上げたのですが」

二宮は苦笑いする。

「ベッドよりもあの枝の感触の方が心地いいそうです。枝のしなりとそよ風が格別だとか」

「全くもう…」

両手を腰に当て、私は溜息をついた。

「ケダモノの考えは理解しかねるわ」

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