闇夜の数だけエゴはある
「えー…何だったかしら」

梓は記憶の糸を辿るように軽く目を閉じる。

そして一言一句。

間違える事なく再現した。

「誰も触れた事のない、無敗にして純潔の杖縁梓を、僕の『エゴ』が真っ黒に塗り潰す…そうだったわよね?野須平誠」

「……」

僕は黙ったまま、梓の顔を見ていた。

心臓の鼓動が、落ち着き始めていた。

冷静になっていく。

いや、違う。

この鼓動は違う。

冷静になったのではない。

このリズムは。

この鼓動は。

間違いない。

『嫌な予感』を告げる、不安を煽る心音だった。

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