天国へのエレベーター
「にいちゃん」
ドアの隙間から部屋を覗きながら名前を呼ぶと、すぐににいちゃんがドアを開けてくれた。
「やあ萌ちゃん」
いつもみたいに片手を挙げての「やあ」という挨拶。
萌もマネして片手を挙げた。
にいちゃんは、萌に幼稚園の制服を着せ、それから自分も真っ黒な服を着た。
「にいちゃん。どうしてみんな、まっくろのふくきてるの?」
萌は不思議になっていた事を、思い切って尋ねた。
にいちゃんは、じょりじょりのヒゲを剃りながら萌に目をやると、寂しそうに応えた。
「おじいちゃんがね、天国に逝っちゃうんだよ」
「おじいちゃんが?」
「うん、だからこの紙におじいちゃんにお手紙を書いてごらん」
にいちゃんは、ヒゲを剃っていた手を止めて萌に紙を渡した。
萌は、幼稚園の年長さんでへにょへにょながらも字を書くことが出来た。
だから、にいちゃんがお母さんやお父さんのいる1階に行った後も、萌は黙って手紙を書いていた。
とにかく、おじいちゃんが天国に行ってしまう…という事が分からなくて、ただただおじいちゃんに言いたい事だけを手紙に託した。