親友、寺に消ゆ
部屋の中でウロウロしている自分が鏡に映った。

恐くて不安でどうしようもない時にやる癖だった。

心臓の鼓動が高まり、息づかいが荒くなっている。

自分を落ち着かせようとその場にしゃがみ込んで耳を塞いだ。

これも自分を落ち着かせようとする時の癖だった。

すると突然照明の明かりがヴゥンと低い音を立てて落ちた。

漆黒の闇が辺りを包んだ直後…何かが聞こえた。

「う……ぎ…」

私は空耳だと思い込むようにして、目を瞑り、耳を塞ぐ手を手の平から指に変え、耳の穴に入れた。

「う………ね」

それでも何かが聞こえる。恐怖で目を開けられない。ただどこかで聞いた事のある声だった。

遠い昔…どこかで。

「…うらぎった…ね」

私は確信した。その声はユッキの声なのだ。間違いなかった。

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