親友、寺に消ゆ
今、私は何年ぶりかに幼少時代を過ごしたあの町に来ている。

東京と違って、太陽の光をさえぎる物がないので辺り一面がキラキラと輝いている。

思い出の地はまだ残されていた。

変わった事といえばあれだけあったほとんどの木が伐採されていた事である。

木立が乱立する場所で合唱するセミや虫達の奏でるBGMはもう聴こえない。

自慢の喉を披露する舞台を失った合唱団は次の会場を探しに飛び立って行ったのだろう。

遠い奥の崖の方はしっかりとした柵が建てつけられていて、月極めの駐車場になっている。

むき出しとなった敷地の中に、小ぶりな寺院がひっそりとあの時のまま建っていた。

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