えんどう豆のゆくえ
 「夏海、またラン待っとるん?」

 聞き慣れた明るい声に、はっと顔を上げて教室の入り口を見る。

 やはり見慣れた顔がそこにあった。

「何や、竜か。風馬かと思ったのに、つまらんわ」

 素直に笑えばよかったのに、ひねくれた性格が災いして、冷たい口を利いてしまう。

 ぶっきら棒過ぎたかと即座に反省したが、竜は怒りも拗ねもせず、何も言わずに隣に座った。


「残念やったな。風馬はとっくに俺を見捨てて帰ったわ。

 ……そんで、夏海ってまだ風馬のこと好きやったん? 」

「当たり前やんか。小6から今までずーっとや」私の言葉に、竜が目を細める。

「小6かぁ。懐かしいなー。ランと風馬と夏海と俺、仲良かったやんな」

「……うん」

「どうしたん、顔暗いで? 」


 そう言われて初めて気付いた。自分が思い切り沈んだ表情をしていることに。

 小6のあの日。私が初めて人を裏切った日が、頭の中で鮮やかに蘇った。
生まれてはじめての、真面目な選択だった。
 
 今考えればよくある話だけれど、それでも私にとっては辛いことで、あの子にとっては裏切りだった。
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