たとえばそんな静寂の中で
そのとき、メールの着信音がして茜は画面を開いた。

茜の携帯は今年の春の新機種だ。タッチパネルの操作性が高すぎて茜には使いこなせないらしい。
携帯の画面を見つめたまま、両手でいじりながら歩き出した。

すれ違う人の波をすり抜けながら、茜はメールを打ち続けた。

あたしたちは教室にたどり着き、階段型の講義室の一番後ろを目指した。

茜は階段につっかかったり、ぶつかったりしながらもメールを打つのをやめようとしない。

6割ほどが埋まった教室は、ほとんどの学生が半分より後ろに固まって座っていた。

無遠慮にお菓子を広げたり、ペットボトルを手にしたまま後ろを向いて笑いさざめく学生もいる。


そうなのだ、心理学は文学部の一般教養の授業で一番単位が取りやすく、出席も授業の終わりに学籍番号の確認だけで終わる、楽チンでちょろい授業だったはずなのだ。

この授業を取っている学生も1年生か2年生が大多数を占めている。

4年生にもなってこの授業を取るのなんて、単位の計算を間違えたあたしと、あたしに単位の計算をまかせっきりだった茜くらいだろう。
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