たとえばそんな静寂の中で
しんと静まり返った教室にシャープペンシルの転がるかすかな音が響く。

こんなにもたくさんの学生たちがいるのに、誰一人それを拾う者はなく、ついにシャープペンシルはおねえちゃんの足元で止まった。

ヒールだけが赤いパンプスのトゥの部分にとどまっておねえちゃんはかがみこんで
それを拾った。

「Get out」

茜は乱暴にノートとハードカバーの教科書をまとめて立ち上がった。

階段をゆっくりと下りる。

おねえちゃんは茜のほうには目もくれない。

「これで今日の心理学の講義は終了したいと思います。次回は発達について講義を行いますが、これから配るレジュメには皆さんに関わりのあることが記載されていますからよく目を通してください」


前の席から回ってきたガリ版刷りのプリントには、カウンセリング室の案内と予約方法が簡単に記されていた。


「私の専門は臨床心理学です。スクールカウンセラーとして皆さんの相談に乗るようこちらのカウンセリング室に常駐します。秘密は遵守しますし、皆さんの個人情報は厳重に扱われます。話すことで心の負担が軽くなったり解決方法が見出せたりしますので、気軽に尋ねてください。なお、カウンセリングについてはレジュメに書いてある通りですからカウンセリングを希望される方は、予約を取ってください」
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