たとえばそんな静寂の中で
ふぅっと息を吸い込んでおねえちゃんは続けた。

そのとき、教室の後ろのドアが開いて光が差し込んできた。

なんとなく後ろを見ると、同じゼミの三井慶介の姿があった。

そういえば、あたしに単位の計算を任せていたのは茜だけじゃなかった。

時間は10時35分、あと5分で一限目の授業が終わる。

おねえちゃんは闖入者をとがめるように視線を投げたものの、ことを荒立てることはしないようだった。

慶介もサボるならサボるで入ってこなきゃいいのだ。

慶介はリュックサックの肩紐を調節しながら、驚いたことに最前列を目指している。

チクタクと時を刻む大時計の針が10時37分を指して、慶介は一番前の教壇のまん前に腰を下ろした。

おねえちゃんは慶介のことを無視して話し続けていた。

「以上、これで今日の心理学の授業を終わります」

おねえちゃんが言い終わるかどうかの瞬間に茜は前のドアに手をかけ、あごを上げておねえちゃんを見た。

おねえちゃんは茜には目もくれず、ホワイトボードの文字を消し始めた。

茜はざわめきはじめた教室のドアを音を立てて開け、肩をいからせるように出て行った。
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