たとえばそんな静寂の中で
お母様がやかんをコンロに掛けて、ガスのスイッチを押した瞬間。
おねえちゃんの声がお母様の背中に突き刺さった。

「お母様、私も房枝といっしょにこの家を出るわ」

チチチチチチチチチチチチチチチ

ガスのスイッチが耳障りな音を立てた。半寸の静寂ののちにしゅぅぼっと大きな音を立て勢いよく炎が上がる。

「なんですって?」」

お母様はそれこそバネでも仕掛けられたかのようにこちらを振り返る。

「紅実、あなたもこの家を出るって言うの?許しませんよ。大体女の子の1人暮らしがどんなに危ないものか、あなたわかってるの?最近、マンションの住民でも油断はできないのよ。殺人事件やら強姦事件、あなたが巻き込まれないって保証がどこにあるの?」


あたしはやかんの底からはみ出す炎を眺めやっていた。

ー大きすぎるガスの火は熱が伝導しないよ。お母様―

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