〜お伽話〜
行儀わるくバーディは、片方の手で一枚の紙をひらひらと揺らしていた。
びっしりと何かが書きこまれたそれは、見る限り上質な紙をつかっているに違いない。
「何それ。また王の情報?」
伽国の王は、竜から姫を救いだした勇者。
その間の国は、侵略の危機だったというのに。
「うーん、王から出されたのはあってるけど…」
バーディはいつにもなく顔をしかめて、考えこむ。
俺はその紙を横から盗み見た。

『我が国の姫アルカがさらわれた』

知ったこっちゃない。
まあお決まりといえばお決まりの事態なのだが、呆れてものが言えないのも確か。
また勇者が……。
アルカ・バーズ・ラスラリィ姫。
伽国の姫で、絶世の美女らしい。
城から一度も出た事がないらしく、口が悪い連中は『世間知らずなお嬢様』とからかわれがちだが、頭はいいらしい。
人から聞いただけなので言い切りの文にできない。
「何だこれ。またさらわれたのかよ」
「でも、何にさらわれたのか書いてないんだよ」
もう一度よく見ると、成程何も書いていなかった。
「よく見てんな。勇者にでもなるつもり?」
「その勇者達が、何処に行ったらいいのか分からないって言ってたんだよ」
ため息が、微かにもれる。
< 5 / 13 >

この作品をシェア

pagetop