『サヨナラユウビン』
「本当に送らなくていいのか?」
「うん、まだちょっと明るいし。」

玄関から少し離れた所で、俺たちはぬるい風を感じながら話している。

「本当の本当に?」
「大丈夫だってば。心配性だなぁ。」

あはは、と困ったように眉を下げて笑う香織。
俺はそんな香織の頭をなでて、

「気をつけて帰れよな」
「また明日ねー」

香織は手を振って帰っていった。
まぁ、大丈夫だよ…な。うん。
香織が見えなくなってから、俺も家に入ろうと振り向いた。

「!?」
「あ、こんばんは。
もうよろしいのですか?」

帽子をかぶった黒ずくめが、うちの前に立っている。

「ど…どっからお前…」
「…あちらから」

そう言って、黒ずくめは空を指差した。

「ふざけてんのか」
「まさか!大まじめですよ。地上より参りました。」

そう言ってにこりと笑った。…その笑顔がむかつく。

「お前、何?
俺になんか恨みでもあるのか?」
「恨みですか?」
「そうだよ。
あんな手紙寄越したりして」
「…。今更、イタズラだと?」
「だって、どう考えてもおかしいだろ?
俺が6日後に死ぬ?信じられる訳ない」

一気にまくし立てると、黒ずくめは無言になった。
…と思ったら、はぁ…と溜め息をついた。

「…あなた、死なない人間なんですか?」
「別にそういうわけじゃねぇけど…」
「なら、6日後に死ぬのは、全くおかしい話ではない。
そう思いません?
だって、ほら…あそこに居る猫。」

ぴ、と、黒い革の手袋をはめた腕をあげて、よく見る三毛の野良猫を指差した。

「…あの猫だって、今から1時間後に死ぬかもしれないし、あと10年後かもしれない。
それは誰にも予想ができない。
もちろん自分でも。
…つまりですね、あなたはただ、自分についての情報がある。
自分の命が尽きる日を、知る事ができた…それだけのこと。
どう思うかはあなたの自由ですが…」

明らかに不機嫌そうに、黒ずくめ。
まぁ…一理あるけど
そして、黒ずくめは静かに俺の横にきて

「…運命は変わりません」

そう言って、姿を消した。
俺の不安が、少しだけ戻ってきた…気がした。
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