『サヨナラユウビン』
黒い人影は、やっぱり俺の家の前に立っていた。
…近くで見ると、不気味な感じがする。
寒々しいというか…
「…すんません、ここ俺ん家なんですけど…何か用ですか?」
「……」
黒ずくめはぴくりともしない。
蝋人形のように白い男。…男か?
そう思うほど綺麗な長い黒髪に、長いまつ毛の切れ長な眼。
容姿端麗を人間にしたみたいだ。
それと、喪服みたいなスーツ姿に黒いロングコートは、今の時期不自然なはずなのに…
こいつが着てると、全然そんな風に感じない。

いや…そんなのはいいんだ。
不気味…だし。
なにより…こいつが居たままじゃ家に帰れない。

「…もしもーし」
「……」

すると、黒ずくめの首が、首のすわる前の赤ちゃんみたいにグラッてなる。

まさか…
…寝てる?

「…眼、開いてるよな…」
そういえばこいつ…眼が赤い。
なに人だ?そもそも眼の赤い人種なんてあったか?
…カラコンか?

「もしもし、起きてますかー?」

肩に手を置いて、軽く揺すってみる。
そうすると、男は眼を見開いた。

「…あぁ…また寝てしまった…。…朝井悠也様ですね?」
「…そうですが」
「お手紙です」

そう言って、黒ずくめは肩掛けの真っ黒い大きな鞄の中から、一通の…黒い手紙を取り出して、俺の目の前に差し出した。
…郵便屋ってこんな不気味だったか…?

「…」
「…お受け取り下さい。
お気持ちはわかりますが…」

…不気味ってこと、自覚してんのかな?
俺はとりあえず、奇妙な手紙を受け取った。
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