愛生
普段、佐藤と以外滅多に話さないから

こんな事態に陥った事はなかった。

保育園の頃は名前を呼ばれても平気だった。

まだ、トラウマじゃなかったから。

私にトラウマができてから

人と話さなくなったから、こんな事にはならなかった。

野々垣さんもこれでもう話しかけてきたりはなくなるだろう。

野々垣さんに限らない。

少なくともクラスの子からは話しかけられなくなるだろう。

「・・・・うぅ・・・・。けほっ、ぐ・・・うぇ・・・」

呼吸もろくにできない状況で嘔吐する。

久々に言われたわけで

今までのモヤモヤもすっきりするかもしれない。

そんなありもしない希望を抱いて

私はクラスメイトを捨てた。

元々違ったのだと言われてしまうかもしれない。

ああ、息ができない。

せき込むと吐瀉物の味がして

余計に吐いた。

涙も嘔吐も止まらないで前傾姿勢を保っていると

誰かが背中をさすってくれた。

野々垣さんかな。

先生かな。

佐藤・・・かな。

いつも私がこうなってしまうと佐藤が背中をさすってくれて

ずっと傍に居てくれた。

吐瀉物の処理も手伝ってくれる。

嫌な顔ひとつ見せずに、大丈夫だからって

そうゆう時すごくかっこいいなって思ってた。

精神が落ち着いた後でも、一度もお礼を言った事ない。

今言おうか。

もうこのまま一生話せなくなりそうだし。

もう誰も話しかけないからこんな事態になる事はないだろうし。

「いつもありがとう」

全然動いてない事はわかってるけど

極力首を後ろに捻って言ってみた。

野々垣さんかもしれないし先生かもしれないし

もしかすれば通りすがりの良い人だったかもしれないけど

佐藤に向かって言った。

佐藤が前方に居るかもしれないけれど。
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