愛生
「おーい、午後用事ある?」

佐藤が話しかけてきた。

「ないけど」

スッカスカの鞄を手に取り立ち上がる。

「じゃあ、あそぼっか!」

嘘をつけばよかった。

暇だとは言えど、彼と一緒に過ごすなんて選択肢はなかったのに。

「いやよ」

私の日常を狂わせないでほしい。

今日が午前で終わるという事は前々から分かっていた事なので

ある程度のプランは立ててある。

寝る。そして寝る。もういっちょ寝る。そんでもって寝る。やっぱり寝る。

こんな感じだけど。

「暇でしょ?」

「暇じゃないわ」

「用事あるの?」

「そうよ」

そう言うと、彼は少しだけ間をあけて

「じゃあ、また今度」

と言って手を繋いできた。

手を・・・繋いで?

手?繋いでる、手。は?

「なにしてんのよ」

手ー繋がってるんですけどー。

「カップル繋ぎにしとく?」

会話ができてない。

「離してくれないかしら」

手に汗がにじむ。

バレる前に離したい。

バレたら、またしつこく何か言ってくるだろう。

「いやだって言ったら?」

「今後一切あなたとは口をききたくなくなるわ」

そう言うと、パッと手を離してにこっと笑った。

「それは勘弁ー」

そう言って教室を出たので私も後を追う。

彼は私を好きなのだろうか、からかってるのだろうか。

たぶん、否、絶対に後者であるのだろうけど。

自惚れていて鼻の下でも伸びていたら恥かしいし

私に限ってそんな事ありえないからな。

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