マジックストーン


 ◇◇◇


「随分と骨の折れる女に本気になったもんだなあ、神崎」

 優衣ちゃんが寝付いた後も離れたくなくて、頭を撫でていたら聞こえてきた声はこの学校一、細めの黒フレーム眼鏡が似合う男。

「いつからそこにいたんですか?」

 短いため息を吐いてから、ベッドから離れ静かにカーテンを閉めた。

「隣にいてほしいとかなんとか」

「ほんっと、嫌な性格してますよね。石谷先生って」

「十分、出来の良い人間だと思うけど」

 そう言って、二つのマグカップにお湯を注いで「飲め」と一つを突き出した。

 湯気のたつそれは黒い液体。

 自己主張とも取れるこの香りは、保健室(ここ)に定着している。

 呟くようにお礼を言って口をつけたそれは、香りと苦味を残して胃に落ちた。

「椎葉で遊んで楽しいか?」

「遊んでませんけど」

 間髪入れずに否定すれば、石谷先生は鼻で笑う。

「なら、まずいんじゃねぇーの?」

「………」

 言われなくても分かってるっつーの。

 俺が優衣ちゃんに本気になればなるほど、まずいなんてことは。分かってる。

 だけど……だけど、傷つけてしまう可能性があると知ってても、優衣ちゃんに振り向いてほしい、なんて思う俺は。

 サイテー、だ。


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