マジックストーン


 ◇◇◇


「………い。 おい。椎葉、起きろ」

「…………ん」

 揺さ振られて目が覚めたと同時に私の額に大きな手が乗っかった。

「もう大丈夫だな。そろそろ七瀬が迎えにくるだろうけど、何か飲むか?」

 起き上がって深呼吸を一つ。

 その時、まだ保健室に染み付いてない香ばしい香りが鼻に届いた。

「……コーヒー」

「あ?お前、顔に似合わずコーヒー飲むのか?」

「えっ……そうじゃなくて。コーヒーの香りがしたから、石谷先生が飲んだのかなと思って……」

「ああ、さっき神崎と一緒にな」

 ………じゃあ、神崎先輩ずっと隣にいてくれた………?

 ベッドの隣にある丸イスを見つめて、改めて神崎先輩のことを考えてみた。

 自由で。強引で。自分勝手な人だけど。

 物凄く優しい人。

「椎葉はさ、どう思ってんの?」

 紙パックのアイスココアと質問が飛んできて、慌ててそれを受け取った。

「……ありがとうございます。
どう思ってるって……何をですか?」

 新しいコーヒーの香りと共に、「神崎のことに決まってんだろ」と少し呆れた声色が耳に届く。

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