マジックストーン
「えっ、あっ……ごめんね?梨海ちゃんが止まったの気付かなくて、それで――」
「どうして目の前に現われるんですか? ……神崎先輩」
嫌そうにその名前を口にした梨海ちゃんは苦虫を噛んだような声だった。
………神崎先輩? えっ、さっき体育館にいたんじゃ……。
私たちは体育館を背に校舎内を歩ってたんだから、普通追い掛けてきて『ちょっと待ってよーっ』ていうパターンだよね?
なのにどうして校舎の中から、しかも私たちの進行方向から現れるの?
「ちょっと優衣ちゃん貸してくれない?」
梨海ちゃんの肩越しから見える神崎先輩はいつものようににこにこしてる。
ふと、斜め上の様子を伺えばそこだけ空気が歪んでるんじゃないかってほど黒いオーラが滲んでる。
「優衣」と、とーっても低い声で呼ぶ梨海ちゃんに「はひっ!」って変な返事をしちゃったのはしょうがないと思うの。
だってめちゃくちゃ怖いだもん。
「優衣が決めなさい」
「えっ……何を決め――」
――るの? を遮って梨海ちゃんはくるりと私の横を颯爽と通り過ぎた。
「りっ梨海ちゃっ……?」
急いで残像の梨海ちゃんを再び見るべく振り返れば、すでに2メートルほど離れている。