マジックストーン

 そのふわふわしたポニーテールの左右運動が勢いよく右に消えて、梨海ちゃんの整った顔が現れた。

「勇先輩と話してるから。優衣は神崎先輩と音楽室にでも行ったら?」

 首を傾けた梨海ちゃんは再び踵を返す。周りにバラが咲いちゃうような笑顔を残して。

 じっと左右に揺れる髪の毛を眺めていれば、ふわっと甘い香りと一緒に耳元で「ちゅっ」と唇が鳴る音がした。

 背中が暖かい、と思ってからばっと見上げれば優しい顔した神崎先輩。

 ……あっ、私。

「なあに?音楽室って?スランプなんじゃないっけ?」

 ……どうして抱きしめられてたのに全然気付かなかったんだろ。

「……えっ、あっ、その……」

 耳に注ぎ込まれる優しい声音と抱きしめられる感覚に慣れ始めている私自身になんだか不安になる。

 だから、神崎先輩に聞かれたことに対して上手く答えられないんだと思うの。

「……とっ、とりあえず!離してください……」

「い・や・だっ」

 語尾に星が飛ぶんじゃないかってほど無邪気な神崎先輩の声。

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