マジックストーン

 深呼吸をしてから、私の鎖骨の辺りに巻き付く神崎先輩の両腕を掴み、左右に引っ張ってみるけどびくともしない。

 一つため息をついてから、神崎先輩を引き剥がすのを諦めて、誰もいない廊下の先を見つめた。

 『優衣が決めなさい』

 そう言った梨海ちゃんの言葉が頭から離れないっていうよりも、こびり付いてる。

 一体何を決めるの?

 ……もしかしてピアノのことかな?

 でも、ピアノに関しては決めるもなにも、私の精神的な問題みたいだからなあ。

「優衣ちゃん?」

「はい?」

「怒った?」

「どうしてですか?神崎先輩、私に何かしました?」

「いや?怒ってないならいいや。 それより梨海ちゃん音楽室って言ってなかった?」

「それがどうかしたんですか?」

 すっと、意外と呆気なく解放されると神崎先輩はひょいっと私の視界に入ってからにこりと微笑んで私に背中を向けた。

 歩きだした神崎先輩の背中をじっと見つめていると、私がいる場所からずっと奥の方から変な声みたいなのが聞こえる。

 その不気味な感じに、私は足が竦んで歩きだせない。

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