マジックストーン
踵を返した神崎先輩は屈んで私と視線をかち合わせる。
「おばけじゃないみたいだね」
「えっ……?」
「さ、音楽室に行こう?」
甘い甘い声で私の頭を撫でてから、腰に手を回した。
けれども、その甘い甘い声と笑顔にすんなりと頷けなくて。 私は嫌悪感丸だしで、神崎先輩の手を振り払った。
「おばけじゃないなら一体何なんですかっ」
一歩後ろに後退りしながら神崎先輩を見上げる。神崎先輩は一瞬目を見開いたものの、すぐその形の良い瞳を細め、私の頬を撫でた。
「優衣ちゃんにはまだ早いんじゃないかな?」
「おばけの正体を知るのに、早いとか遅いとか、小学生じゃないんですからっ」
「じゃあ、おばけに近づいてみれば?」
「なっ! そ、それは無理ですっ」
「じゃあ、実践する? って言いたいとこだけど、そんなことしたら今度こそ梨海ちゃんになぶり殺されちゃうかもだしね。止めとこうねーっ」
………だからどうしてっ!
全部一人で納得して私に分かるように教えてくれないんですかっ!
「どうしても教えてほしい?おばけの正体」
ぽんぽんと私の頭で手のひらを弾ませながら優しく笑う神崎先輩に、さっきの嫌悪感はなかった。