マジックストーン

「すっぽかされたら困るからね」

 紺色の浴衣を着くずした神崎先輩が家の前の塀に寄りかかっている。

「……別に逃げたりしませんけど」

 まあまあ、とにこりと微笑む神崎先輩。その笑顔が何だかくすぐったくて笑ってしまえば、

「やっぱ、優衣ちゃんの笑顔はサイコーだね」

 体を屈め私の頭を撫でる神崎先輩は何だか楽しそう。

 歩きだした私達は他愛ない話しをしながら出店が出ている神社周辺に向かった。


「もっとゆっくり歩く?下駄、痛いでしょ?」

 神社周辺に着く前も着いて出店を見て回ってる時も何度も何度も聞いてくる神崎先輩。

 それがたぶん神崎先輩の優しさなんだと思うの。

 だけど、やっぱり神崎先輩って“変”なんだと思う。だって、私が「たこ焼き食べます?」って聞けば「そんなの食べたらお腹壊すよ」と顔を歪ませたの。

 たこ焼きって滅多にお腹壊す物じゃないですよねえ?

 ポカーンと口を開けて見上げる私――

「ばべっ!」

 ――の口の中に神崎先輩は落書きせんべいを突っ込んだ。

「ははっ!」

 お腹を抱えて笑う神崎先輩は近くの大きな石に腰掛ける。

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