マジックストーン
微動だに出来ない私と微動だにしない神崎先輩はきっと透き通った氷の箱の中。
それを自分たちで壊すことが出来るのに、私は壊すことが出来なくて自然に溶けるのを待っている。
だってその箱は触れるとひどく冷たいもの。もしそれが神崎先輩の心なら、私は。
怖くて触れることさえできない。
「――優衣ちゃん?」
ぶわっと周りの音が鮮明に聞こえる。私が壊せなかった箱は神崎先輩が自分でそれを壊し、そして隠した。
だって――
「そんな泣きそうな顔しないでよ。さあ、あと少し夏祭りを楽しもう?」
――私の嫌いな笑顔なんだもの
「………やだ」
「え?」
「神崎先輩なんてきらい」
「えっ?! それはもしかしていつかのコクハクのお返事?」
隣にいた神崎先輩はいつの間にか私の目の前でしゃがんでいて。俯く私の顔を見上げていた。
ゆっくりと神崎先輩を見れば、神崎先輩はくしゃりと笑う。
………あっ。
「でも、俺、諦められないなあ」
胸の奥が鳴るような温かくて柔らかい笑顔は、私のすきなもの。
「神崎先輩、私……先輩にお礼がしたいんです」