マジックストーン
「俺が出かけないように見張ってろ、ってとこかな?」
立ち上がって振り向けば、案外澄ました顔の黒爺。けれど、一度困ったように笑い「左様でございます」と。
「やっぱりなあ。まだ、出かける予定はないけど、もし、ここに来るようなら逃げるから」
「承知しました」
手をひらひら振りながら部屋に戻ろうと、階段に足をかけた時、ポケットに入れておいた携帯が鳴り響いた。
携帯を開くと予想外の人からの着信。止まっていた足を再度動かしながら、通話ボタンを押した。
「珍しいね、梨海ちゃんが電話くれるなんて。……あれ?初めてだ――」
『優衣から連絡ありませんでしたか?!』
刺すような声は息が切れている。
「え? ないよ? 梨海ちゃんどう――」
『優衣が神崎先輩の家に行っ――』
「梨海ちゃん!」
相当慌てている梨海ちゃん。だけど、優衣ちゃんがどうしたのか、何があったのか知りたいから、
「落ち着いて」
ざわざわする心を必死に宥めて、なるべくゆっくりとした声音で問い掛けた。
『……いの』
「……え?」
『いないのよっ……優衣が!』