マジックストーン
泣き叫ぶように言った梨海ちゃんの息はさらに上がっていて、きっと走り回って優衣ちゃんを探してる。
階段の途中で止まったままの俺は、足下をじっと見つめ、それから黒爺を一瞥した。
……家を出るならカノンが来る前、か。
「俺も探すから、見つかったら連絡ちょうだい」
か弱い返事を聞いた後、携帯をポケットにしまい、黒爺に微笑んだ。
「逃げるわけじゃないけど、急用だから。カノンが来ても相手しなくていいよ」
「承知致しております。カノン様のご様子は随時メールをお送り致します」
「いってらっしゃいませ」と分度器で測りたくなるような、お辞儀で黒爺は俺を見送った。
眼鏡と帽子を被った俺はとりあえず優衣ちゃん家に向かう。まずは彩織さんに聞かないと。
「あら、祥也くん」
家を出てから数十分後、やはり少し不安げな彩織さんが俺を迎えてくれた。
自分も探す、という意思を伝えると、彩織さんは「ありがとう」と微笑んでから、
「きっと優衣ちゃん疲れちゃったのよ。あんなに毎日レッスンするから」
呆れた様に肩を竦めた。