マジックストーン

 一度、夏祭りの時に着ていたのは確か紺色の浴衣だったと思う。けれど、今日は渋い浴衣。

「神崎先輩今日は紺じゃないんですね」

「あれ啓輔にとられちゃってさ。優衣ちゃん覚えててくれたんだね」

 周りでうっとりしたため息が聞こえちゃうくらい甘い微笑みを浮かべる神崎先輩。

「あ、あのっ!神崎先輩のクラスって、何にしたんで――」

 とりあえず話を変えようと思って口を開いた私を、神崎先輩はさらに甘い微笑みと柔らかい抱擁で遮った。

「俺に興味を持ってくれるなんて嬉しいなっ」

 べ、別に神崎先輩に興味を持ったわけじゃなくて、神崎先輩の“クラス”に興味を持ったんですけどっ。

 ――なんて言えない。言えるわけない

 だって!もうすでに私に顔を近づけてくるんだものっ。必死に、体を後ろに反らして逃げてるけど!

「どうして逃げるの?優衣ちゃんがチューしてくれたら教えてあげてもいいのに……」

「そ、そんなっ! ……だったら、勇先輩か岩佐先輩に聞くからいいですぅっ」

 だから離してくださいっ。と言う前に、すっと手を離した神崎先輩は目を細めた。

 ……っえ? おお怒ってる?!

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