マジックストーン
どっからどう見てもむっとした神崎先輩は一度視線を下にやってか――
「他の男に目移りしたの?こんな近くにいい男がいるっていうのに」
――瞬く速さで私の後頭部と腰に手を回し引き寄せた。それも息がかかるほどのキョリに。
「せんぱっ……なにやっ――」
「ホントはもう俺のこと好きなんでしょ?だけど、困ってる俺がみたいから好きじゃないフリしてるんでしょ?」
「神崎先輩何言って……は、離してっ」
「そうやって拒むくせに耳まで真っ赤になってる。嫌じゃないんで――」
パァンと乾いた音が響いた。
「好きじゃないっ! ……けど、嫌いじゃなかったのにっ。どうしてこんな……。
――神崎先輩なんて嫌い。大キライ!!」
神崎先輩の肩を強く押して走りだした私は教室を飛び出した。
どうしてっ……どうして今日の神崎先輩はあんなに意地悪だったの?それに、意地悪にしてはやりすぎ。
私はどうすればいいの?どうしたいの?
……分かんない。分かんないから苦しい。胸がきゅうって苦しい。
走って走って、一気に階段を駆け上がって、重くて冷えた扉を押し開け、飛び出た。