マジックストーン

 ……あれ? 神崎先輩の匂い……?

 左、右と曲がり最後の角を右に曲がった瞬間、何かに包まれ視界が真っ暗。 今頼りに出来るのは聴覚と嗅覚。

 神崎先輩だと分かった瞬間安心して、それと同時に怖くなった。そう思ってしまうと怖くて怖くて仕方なくて、ぎゅっと掴んだ。神崎先輩のゆかたを。

「もう大丈夫だよ、優衣ちゃん」

 優しく頭を撫でられてゆっくり顔を上げると、そこには一日ぶりに見た優しい笑顔があった。

「かんざき……せんぱっ……わたし……」

 たくさん走ったんです。男の子たちに追いかけられて。それで……それでっ。

「……こわかっ……」

 神崎先輩に聞いてほしいことがいっぱいあるのに、どれもうまく声になってくれない。

 じわじわと感じ始めた恐怖と言いたいのに言えない自分が情けなくて。泣きたくなくて、口を固く結んだ。

「そっか。優衣ちゃんよく頑張ったね」

 いいよ、いっぱい泣いて。ふわっと柔らかく微笑み言った神崎先輩は私を優しく抱きしめた。

 それも、壊れ物を扱うかのように、とても、とても、大切に。

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