マジックストーン

 仕方なく、辺りを見渡した後、ドアを押さえて微笑んでる神崎先輩の横を通りすぎた。

 直後。カチャン、と後ろで鍵をかける音にはっとして振り返れば、ふわり、と何かに包まれた。

「……昨日はごめんね」

 消えてなくなってしまいそうな切ない声。それは上から聞こえてくる。

「ただのヤキモチ。こんな可愛い格好した大好きな女の子を他の男に見せたくなくて。なのに、優衣ちゃんは俺じゃない男の名前出すし……それに、滝本の手握って、顔も近かった」

 ぎゅうっと、神崎先輩は私をきつく抱きしめる。

「……っせんぱ……くるし……」

「うん」

 え?! うん、じゃなくてっ。離してあげようって気は、これっぽっちもないんですか?!

 神崎先輩の腕の中でもがいていると、上から小さなため息が聞こえてきた。

「やっぱり、俺のこと、キライ?」

 切なさと悲しさをぎゅっと詰め込んだ、そんな声に驚いて、ゆっくりと見上げる。

 神崎先輩は声と同様に、眉を寄せ辛そうで。そんな顔をさせているのが私だと思うと、胸が締め付けられた。

「俺はずっと、春からずっと優衣ちゃんが好き。だから、離したくない。今も、これからも」

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