マジックストーン

 驚いたって顔の神崎先輩と目が合った。

 目が合っただけで、神崎先輩はその人から離れようとはしなかった。だから、だから私は邪魔しちゃいけないと思って、急いで玄関を飛び出したの。

 走って走って。いつかの文化祭みたいに走って、いつも待っているバス停を通りすぎた。

 いつから泣いてたのかな。涙で顔がぐしゃぐしゃ。なのに涙が止まらない。

 遊ばれてたんだって知っても、好きで好きで仕方ないの。失恋だって分かっても、もう、どうしようもないくらい好きなの。

 好きで、好きで、大好きで。

 男の人に対して、初めてこんな風に思ったの。それは、きっと、神崎先輩だからだって分かってるけど。

 神崎先輩……さっきの人と、キスしてたんだよね……。私なんかよりずっとずっと綺麗で、スタイルのいい人……。

 涙、止まりかけてたのに。

 だめだなあ……思い出すだけで、勝手に涙が出てきちゃうんだもん……。

 いっそのこと、声を出して泣きじゃくりたい。その方が、もしかしたら、好きなの忘れられ――

「っ優衣!」

 がばっと。大好きな香りに包まれた。

< 241 / 275 >

この作品をシェア

pagetop