マジックストーン

 心が、身体が、喜んでる。喜んでるけど、涙が止まらないの。

 嬉しいわけじゃない。だって――

「どうしてっ……」

 追いかけてくる必要なんてないじゃないですか。

「……離してください」

 私で遊んでるなら、もう構わないでください。

「優衣ちゃん……俺――」

「良かったじゃないですか……っ……あんなに綺麗な人、神崎先輩じゃなきゃ……釣り合わな――」

「そう思うなら、こっち向いて“おめでとう”って言ってよ」

「っ!」

 ぐるんと身体が半回転した。目の前にはネクタイ。顔を上げれば、すぐそこにいつもの笑顔があるかもしれない。

 おめでとう、なんて言いたくない。言いたくないよ……っ。

「言ってくれないの?」

「……っおめで――」

「ちゃんと顔上げて俺見て」

 目を擦って涙を拭う。ぎゅっと神崎先輩のワイシャツを両手で握った。

「……おめでとうございまっ――っ?!」

 言い終わる前に、神崎先輩は私を、ぎゅうっと、きつくきつく抱きしめた。

 神崎先輩の甘い香り。それは私をより一層悲しみに陥れるものでしかなかった。

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