マジックストーン
どちらかが口を開くわけでもなく、ただ、目の前で揺れる黒い影を見つめて歩く。
それが本当に心地よくて。
ぎゅっと繋いでいた私より大きい手のひらを握った。
「ん?」
不思議に思って私を見た神崎先輩を見上げて笑ってみせた。
「なーに。チュウしてほしいの?」
「なっ?! わ、私そんなこと言ってな――」
い、と言い切る前に私の唇は塞がれてしまった。 ……もちろん、神崎先輩のそれに。
でも。 神崎先輩とキスするのは嫌いじゃないっていうか、嬉しい、かな?
目を瞑った数秒間。たったその数秒間に幸せがぎゅっと詰め込まれた様なそんな感覚。そんな感覚がたまらなく好き。
ゆっくりと離れた唇はまだ少し熱い。けど、ゆっくりと目を合わせて笑い合うその瞬間も好き。
「優衣、顔赤い」
「それはっ……」
ちょっとしたことで言い合ったり、笑い合ったり。くだらないことで盛り上がってるうちに、あっという間に私の家についてしまった。