マジックストーン


 振りほどこうとして、掴まれていない手で神崎先輩の手を掴めば、その手も神崎先輩に掴まれた。

 後ろに逃げようとしたのに、なぜか神崎先輩の手が、私の腰辺りに巻き付いていて。

 逃げるにも逃げられない。

「初めて会った場所思い出した?」

「そ、そんなの!昨日初めて会ったに決まってますっ」

 だから離れて下さい、と言おうとした時、神崎先輩はさらに身体を引き寄せた。

「ダメだよ、優衣ちゃん。そんなに、お仕置きしてほしそうな顔したって。優衣ちゃんの可愛くて甘い声を廊下に響かせたくないもん」

 さぞ楽しげな声と一緒に、視界が神崎先輩の顔いっぱいになっていて。

 唇には柔らかい感触に、周りの黄色い声。

「あーら。優衣ったら大胆なんだから。こんな廊下の真ん中でキスなんてっ」

 不意に梨海ちゃんの声が聞こえて、自分があの神崎先輩とキスしていることを知らされた。

 しかも、廊下の真ん中で。

 気付いた時には、神崎先輩の頬をおもいっきり叩いた直後だった。


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