マジックストーン
周りの気温がぐっと下がった気がした。それくらい俺は緊張の糸を張り巡らせている。
お互いがお互いの眼の奥を読み取ろうとして、どちらとも口を開かない。いや、敦司は口元に笑みを浮かべて余裕そうだ。
まるで、俺が今日、この時間に、何を聞きに来たのかさえ分かっているとでも言わんばかりの笑み。
目の前にいるこのひょうひょうとしたこいつは一体何を考えているんだ。想像もつかない。つかないが、考えなければならない。こいつに“勝つ”には――いや、“負けない”ために俺は先回りしなければならない。
――そう。
俺はこいつに負けなければいいんだ。勝てなかったとしても、引き分けにさえ持ち込めればなんとかなる。
どんな数式や英文なんてコツを掴めば簡単なんだ。コツを掴むまで少し時間がかかるだけ。でも、引き分けに持ち込むためのコツなんていくら考えたって時間をかけたって分からない。
悔しいくらいに、俺はこいつには勝てないんだ。これからもきっと、勝つことなんてない。