マジックストーン
息が止まってしまいそうな重い空気が広がったのは、ほんの一瞬だった。ふっと頬を緩め、下を向いたかと思ったら、すっと顔を上げ――
「そうだよ」
――冷たい瞳が俺を貫いた
「たとえ、椎葉優衣がお前から離れなくても、椎葉優衣が傷つき、それを見たお前が自分の所為だと苦しめばいい。たとえ、椎葉優衣がボクのものにならなくても」
「……っ」
「かわいそうだよね、椎葉優衣は。神崎祥也という男が自分を好きにさえならなければ、こんなに傷つくことなんてなかったのに」
「ああ、かわいそうだ」と呟いた敦司の手のひらが俺の肩で跳ねた。
ふっと嘲笑うかのように口角を上げ、俺を通り越し“加賀美”の家のドアに向かう敦司。加賀美のおじさんやおばさんはいい人だ。どうして俺が“神崎”なんだ――
別に俺は――
バタン、とドアに吸い込まれる背中を見つめながら、
「俺が優衣を好きになったから……」
罪悪感に飲まれていった。