マジックストーン
部屋には私のため息まじりの返事が漂う。
……そうだよね。
ピアノの練習して、お母さんに納得してもらえるように上手にならなくちゃ。
もさもさとベッドからおりて、階下へ。
「優衣ちゃん……。ごめんね?今日、奥様が帰ってくるなんてしらなくて……」
「大丈夫。慣れてるから。お母さんは私のためを思って言ってくれてるんだから。それにこたえなきゃ」
「………優衣ちゃん」
彩織ちゃんの悲しみをたっぷり詰めた声を、背中に受けグランドピアノが置いてある部屋に進んだ。
音符がびっしりの長い楽譜を用意して、黒い椅子に浅く腰掛ける。
一度、目を瞑って深呼吸。
静かに鍵盤に両手を置き、一思いに弾き始めた。
楽譜に目を遣るのさえもったいないくらいの速い曲。
何もかも忘れて、でも思いは込めて。