マジックストーン


 「しょうがないなぁ」なんて、少し笑いながら私を解放した神崎先輩は、いつものように私の腰を抱きながら歩き出した。

「あ、の!私、ひとりで歩けますけどっ」

「ん?だって、優衣ちゃん方向音痴でしょ?」

「別に、方向音痴じゃありませんし、自分の教室くらいひとりで行けますっ」

「でも、ダメ」

 優しい口調で私の願いを却下する。

 毎日毎日、この会話をしてるのは気のせいじゃない、よね。

 きっキスされた次の日は、嫌がる私に「病み上がりだもんね」とか、なんとか言って離してくれなかったし。

 その次の日も。

 だから、私は「叫びますよ?」って言ったのに。

 神崎先輩は、笑いながら「じゃあ、チュウしてあげる」なんて言われた私は、黙るしかなかった。

 いつもはここで話を変える神崎先輩。

 だけど、何でダメなのかが気になった私は、話を変えられる前に「何でですか?」と、聞いてみた。

「優衣ちゃん、誰かにぶつかるでしょ?」

 ………誰かにぶつかる?

 意味が分からなくて、神崎先輩を見上げれば、砂糖を煮詰めてとろとろにしたような甘い笑みを私に向けた。


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