マジックストーン
いつもだったら黄色い声があちこちから聞こえる。けど、今日はまだ他のクラスのホームルームは終わってないらしく、聞こえてこない。
たまには、静かなのもいいかもね。
なるべく急ぎ足で、階段を下りたり上がったり。 やっと着いたその先では、ちょうどホームルームが終わっていた。
エナメルバックを背負(しょ)った丸坊主の男や、スカートを翻す女の子が廊下を急ぐ。
次々と、周りのクラスもホームルームを終え、徐々に黄色い声が上がり始める。
いつものことだし、と思って笑顔で手を振れば、さらに黄色い声が上がり、顔を赤らめる女の子達。
その、いかにも“大好きです”っていう表情。
優衣ちゃんのが見たいな。
どっかに落ちてない? 優衣ちゃんに好きになってもらうための攻略本的なものとか。あるいは、取り扱い説明書。
……あるわけないよねえ。あったらこんなに苦労しないわけだし。
「あーら。お迎えですか?神崎先輩」
高過ぎず低過ぎずのこの声の持ち主は。
「当たり前でしょ、梨海ちゃん」