マジックストーン

「……………たい」

「――えっ」

「優衣ちゃんのピアノが聞きたい」

 大嫌いなピアノの音色は、誰が弾いても変わらないのか、どうか―――

 ―――確認したいのかもしれない……。

 一瞬、目を見開いた優衣ちゃんはすぐに表情を曇らせた。そのついでに、俯いてしまって顔が見えない。

「………それはだめです」

 やんわりと。しかし、しっかりと“拒否”を感じる。

「私……最近思ったように指が動かないんです。だから、途中で止まっちゃうんです。……表現したいものが上手く表現出来ない……」

 思い詰めた声音の優衣ちゃんは、くっと唇を結ぶ。

 不安の色を滲ませた瞳を俺に向けて、苦しそうに微笑んだ。

「そっか……じゃあ、優衣ちゃんが納得出来るようになったら、俺に聞かせてくれない?」

「………はいっ」

 心地よい春を過ぎ、夏に近づくこの時季に。梅雨の苛立ちを忘れるくらいの柔らかい笑顔。

 この笑顔を独り占めすることが出来る日は来るのかなあ……?

 それでも今目の前にいる優衣ちゃんを愛しいと思うのはきっと。間違いなく恋なんだと思う。

 俺にとっては3度目の恋。

 誰かを好きになるなんて少しっていうかだいぶ不思議な感覚だし、久しぶりだし。戸惑いはある。

 だけど、好きっていう確信はあるから。

 優衣ちゃんが違う男を好きになっても。

 なんとなくだけど、優衣ちゃんをずっと好きでいられる気がする。

 なんでだろう。優衣ちゃんを見てから、3ヶ月くらいしか経っていないのに、こんなにも俺は優衣ちゃんにはまってる。

 隣で揺れるふわふわの黒髪を見つめながら、俺は。

 どんなに時間がかかろうと、優衣ちゃんの気持ちを奪おうと決意した。

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