マジックストーン
新たな一面は“優しい人”
◇◇◇
ピピー。バアンバアン!
キュッキュッと体育館のフロアとシューズの擦れる音やバスケットボールやバレーボールが弾む音が響く体育館。
夏の始まり、7月の頭。
1学期最後の行事、球技大会に向けての練習が行われる2時限目の体育。
「ゆーいー! ちょっとくらいやりなさいよぉっ」
赤のビブスを着けた梨海ちゃんがバスケットボールを弾ませながら近づいてきた。
「梨海ちゃんだって知ってるくせに。私が運動音痴なくらい……」
「補欠でもバスケのメンバーなんだから、軽く練習くらいしたら?」
「でも……」
「恐る恐るやるから、突き指なんてするのよ。 だいたい、今スランプでピアノ弾かないんだし、良いチャンスだと思うけど」
ほら、と渡された赤いビブスは6番。
確かに、最近はピアノに触っても自然と指が動かないし、曲に合った表現も出来なくて。大好きなショパンの曲よりも、童謡を弾いては気分を紛らわしてる。
少しは気分転換になるかな?
小さな希望を胸に、赤いビブスに腕を通し、下ろしたままのくせっ毛をひとつに束ねる。