改札口の彼に。
1章 うそ寝
「また、明日。
取材頑張って」

終電間際、
東銀座駅の改札前。

駆け足でホームに向かう人々。

一生懸命作った笑顔に
力が入らない。

それをごまかすように、
信(ノブ)に、思いきり手を振る。


「ミミ。
最近疲れてるよ。。。顔」

私は恨めしげに
彼の顔を見る。

「あなただって。」と
言いかけたが、
クルリと背を向けて
改札へ歩きだした。


「ちゃんと寝ろよ!」


信の声が、鈍く地下道を反響して
追いかけてくる。


信は優しい。


出会って一年半、彼自身どんなに疲れていても
私の些細な変化を見逃さない。

それでいて、深く干渉もしてこない、
常に見守る姿勢を崩さない彼。


そんな彼を、父親みたいだなぁと思う。


前に、この気持ちを正直にぶつけたことがあった。


信は顔に大きな笑窪をつくりながら笑って

「せめてお兄ちゃんって言えよなぁ!
でも、あれだ。
俺がお父さんなら、ミミは反抗期真っ只中の
不良娘だな。」

たしかに。

信からみても、世間からみても、
私は不良娘なのかもしれない。

25歳で独身。

不規則な広告代理店の仕事、

その上お酒好き。

気が付くと今週も
3日しか自宅に帰っていない。


見兼ねた信が、
私の体を気遣うような言葉をかける。

「まだ若いから、
寝ないでも遊ぶの!」


そう言ってきかない私と
喧嘩になることもしばしばだ。
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