君色
「ねぇ、苗字で呼ぶのそろそろやめてくんない?」
俺はずずいっと顔を近づけ、真剣な顔して訴えた。
「ちょっ…近いよ!」
顔を真っ赤にして俺を遠ざけようとする円。
「じゃあ名前呼んで」
「はぁ?」
「ちゃんと言えるまで夜景見るの禁止ね」
そう言って俺は左手で円の顔を自分の方に向けて固定した。
より一層円の顔が赤くなっていく。
おもしれーコイツ。
本当にこういうの免疫ねーのな。
「ほ……く…と」
「もう一回」
「北…斗…」
「もっと」
「北……っ!」
三度目の名前が言い終わる前に己の唇で円の口を塞ぐ。
夜景を見る事も忘れ、ただその一瞬にしがみつくように俺たちは夢中でキスをした。
二人の唇がくっついては離れ、くっついては離れを繰り返している間に
俺たちのゴンドラが頂上に到達した事にも
雨が降り出し、それがゴンドラの窓ガラスを滴らせていた事にも気づかずに…。